
AI VIRTUAL SENSOR
壊さないと分からないものを、
壊さずに推定する。
抵抗スポット溶接の品質を、打点ごとにその場で推定し、結果を次の打点の条件に返す。ロックウェル・オートメーション・ジャパンと共同で取り組んでいるAI仮想センサーです。2026年7月の ROKLive Japan 2026 で共同出展し、実機相当のリアルタイム制御盤デモを展示しました。
なぜ溶接の品質は見えないのか

ところが、その一点一点がきちんと溶けているかどうかは、外から見ても分かりません。確実に確かめる方法は、実際に割って中のナゲット(溶融した部分)を見る破壊検査です。
当然、全数は割れません。そこで抜き取り検査を行い、あとは電流や加圧の条件が正しく設定されていることを頼りにします。しかし電極は打つたびに摩耗し、板の合わせ具合も一定ではありません。条件が同じでも結果が同じとは限らないのが、この工法の難しさです。
波形から中で起きていることを推定する
溶接中の電流・電圧・そこから計算される動的抵抗は、ナゲットが育っていく過程に応じて特徴のある変化をします。この波形は、壊さずに取れます。
仮想センサー(ソフトセンサー)とは、直接は測れない量を、測れる量から推定する仕組みのことです。ここでは、破壊検査でしか分からない溶接の良否を、波形という測れるものから推定しています。センサーを新たに取り付けるのではなく、すでに取れている信号の読み方を変えるという発想です。
構成
- 現場で取る溶接機から電流・電圧の波形を取得し、打点ごとに切り出します。あわせて電極の使用打点数など、状態に関わる情報も持ちます。
- エッジで判断する取り込んだ波形から特徴量を計算し、その場で良否を推定します。クラウドに送って返ってくるのを待っていては、次の打点に間に合いません。産業用エッジ機器の上で推論を完結させる構成を取っています。
- 制御に返す推定結果と、その要因の分析をもとに、PLCのタグ値を書き換えて次の打点の条件に反映します。人が画面を見て判断するのではなく、ループの中に組み込むという考え方です。
- 履歴を残す打点ごとの推定値と判断根拠を記録します。あとから傾向を追えること、そして現場の人が「この判断はおかしい」と指摘できることを重視しています。
使っている手法と、ブラックボックスにしない工夫
| 良否の推定 | 波形から抽出した特徴量をもとにした決定木系のモデル(Random Forest) |
|---|---|
| 異常の検知 | マハラノビス距離による、正常状態からの逸脱の検出。過去の不良データが少なくても機能させるため |
| 判断根拠の提示 | SHAP による要因分解。どの特徴量がその判断を押し上げたのかを打点ごとに示す |
製造現場にAIを持ち込むとき、最後に効いてくるのは精度よりも納得感です。「なぜこの打点を不良と判断したのか」に答えられないシステムは、一度外すと二度と使われません。要因を出す仕組みを最初から組み込んでいるのは、そのためです。
いまどこまで来ているか
この取り組みは公開データセットを用いた検証段階です。学習と評価には、抵抗スポット溶接の公開研究データ(1,976打点・うち欠陥79件)を使っています。実際のラインに適用するには、その設備と材料で取得したデータによる再学習と検証が必要です。また、多打点ラインへの展開についても、まだ検証できていません。展示の場でも同じ前提をそのままお伝えしています。
不良は数が少ないため、不良側を取りこぼさない精度をどこまで上げられるかが、実用化に向けた最大の課題として残っています。ここを曖昧にしたまま「AIで品質保証ができます」と言うことはしません。
展示したもの
ROKLive Japan 2026 の共同ブースでは、実機相当の速度で打点が進むリアルタイム制御盤のデモを展示しました。電流・電圧・動的抵抗の波形、電極の摩耗の進行、良否の判定履歴が同時に動き、電極摩耗やクランプ遅れといった異常を意図的に発生させると、判定と制御がどう反応するかを見ていただける構成です。
出展の様子は ROKLive Japan 2026 出展レポートに掲載しています。
この考え方は溶接に限りません

「直接は測れないが、間接的に取れている信号から推定する」という構造は、溶接に固有のものではありません。
ただし成立の条件もはっきりしています。推定したい結果の正解データが、ある程度の数そろうこと。そして、その結果に関係する信号が実際に取れていること。この二つが満たせるかどうかは、工程を見せていただければ早い段階で判断できます。




